電気二重層の電位分布を計算した話 (3)

電圧が低くて電流が流れなければ: Gouy-Chapman EDL

<電気二重層の形成>

前のページでは、誘電体が分極することで電気二重層ができると説明しました。その場合、電荷は分子のまわりでわずかに場所を変えるだけでした。 しかし、イオンが水の中に浮いていれば電極に移動することで電気二重層(EDL)ができます。 電極上の電荷はどれだけ相殺されるのか、EDLの厚みはどれだけかに興味がもたれます。 話を簡単にするために NaCl型の塩が溶けた溶液を考えしょう(Al2(SO4)3型は難しすぎます)。

<平均場近似>

ここからの指導原理である平均場近似を説明します(参考書 (1) p.383 から引用)。 「一つの粒子に注目し、他の粒子からそれにおよぼされる作用は平均的に定まるある力場として、その粒子に働くものとし、 その平均力場ー分子場ーの中での一つの粒子を統計力学的に取り扱う(後略。)」
平均場近似の演習問題が参考書 (1) p.395 にあります。それに沿って話を進めます。

<ボルツマン分布をする電荷>

図のように+極にはーイオン、−極には+イオンがそれぞれ寄っていくと予想されます。溶液内の過剰電荷と電極電荷が釣り合うと考えます。 図の分布を数式で表すと次のボルツマン分布の式になります。φからρが決まることに注意してください。
<静電ポテンシャルの基本方程式>

ρからφを決める方程式がありました。ポアソン方程式です。そこでρを消去します。
 
境界条件は φ(±a)=V0とします。非線形問題なのでφ(0)を0と指定する必要はありません。 次のパラメータでスケーリングします。
25 ミリボルトという値はあとで重要になってきます。λはデバイ Debye 距離です。こうしてη(ξ)関数が得られます。

そして次の関数形が導かれます(参考書 (2))。ξ0=-a/λ です。

<ポテンシャル分布のグラフ>

いくつかの η0 値に対して ξ-η 関係を計算しました。分かりやすくするためにグラフの原点(電極面)を 0 に平行移動させました (今思えば参考書(2) に間に合わなかったのが残念です)。
 
η0=φ(-a)/VTの値が1程度なら指数関数のグラフなので参考書(1)の近似は正当です。 それより大きくなると電極近傍で一気に下がるものの、同じ指数関数の上に乗ります。 しかしこの領域では電流が流れるようになるので、モデルそのものに正当性がなくなります。

<まとめ>

冒頭にあげた問題提起については、デバイ距離程度電極から遠ざかれば事実上 φ=0 になるので電場は存在しません。従って電極の電荷は100%相殺されます。 EDLの厚みは定義が難しいのですが、数十ミリボルトの電位以下ならデバイ距離の程度と言っていいでしょう。

<参考書>

(1) 久保亮五編, 大学演習 熱学・統計力学 (裳華房, 1961).
(2) 林 茂雄, 技術者のための電気化学 (コロナ社, 2014) p.76.

3-12-2020, S. Hayashi