負イオンで負極メッキができるわけ(1)

電場があればイオンが動く

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<電場を作るもと>

  1. 間隔 L の電極間に電圧 V がかかっている。

  2. 電極上に電荷分布ができる。

1) では負極(陰極、カソード)表面に表面電荷 -σが発生する。電極間に何もなければ電場は E=V/L であるが、間に物質、特にイオンが存在すればσが小さくなってE の値は小さくなる。

2) は、例えば Na2Zn(OH)4とNaOHの混合溶液であれば

             Zn(OH)42-+2e-→Zn+4OH-      (I)

がある。 電極面上に負電荷がべったり貼りつくというイメージである。なお正極側では同時に次の反応で負電荷欠損が起きる。

             4OH-→2H2O+O2+4e-             (II)

<電荷が外側に広がっても電場は同じになる>

左の反応(I)で、OH-が外側に移動すれば電荷が広がるが、外側から見れば電荷の総量は変らない。Gauss の法則によれば電場 E は変らない。 ただし、定量的議論には表面電荷 -σ も含まねばならない。

<電極近傍で電荷は打ち消されれるが電場は残る>

左の反応(I)で生じたOH-をめがけてNa+がやって来れば電荷は帳消しになる。 しかし、Na+動けばそれまでの中性雰囲気が壊れて負電荷が増える。そこにむかってNa+が移動し・・・というように電荷の再配置が起きる。 よって電荷の総量は変わらない。 生成したOH-の負電荷が101〜102nmオーダーの空間に分散するとみなすべきであろう。広がった電荷は電場を作る。

なお、OH-自体が拡散すればNa+と遭遇するチャンスが増えるが、電荷の総量はやはり変らない。

<やがてバルクに分極が起きる>

上で述べた電荷の広がりは、イオンの濃度拡散よりも速い速度で電場Eを伝搬させる。そしてNa+を正極側からも呼び込み、OH-を正極側に送り込むようになる。 視点を電極近傍から電解液全体に移せば次のようなことが見えてくる。

  1. 反応(I)で生じた負電荷の総量は、Na+の応援を得てわずかに負の値となる。

  2. 正極側で生じた負電荷欠損は、OH-の流入(補充)あるいはNa+の流出によりわずかに正の値となる。これらの電荷間でマクロスケールの電場ができる。

  3. 電極からマクロな距離に遠ざかれば、濃度変化が遅いので電気的に中性になると考えられる。マクロスケールの電場は依然として存在する。

同じ負イオンでもZn(OH)42-については濃度勾配が負極側にできるので正極の中性化には余り寄与しないと予想される。

<化学分析すれば>

溶液を攪拌せず、電極付近の物質量変化(初期濃度濃度からの変化分の総量)が調べられたとすれば

  1. Znが析出したことによるNa2Zn(OH)4濃度減少は、Faradayの法則によりメッキ量に一致する(正極側の濃度変化は多分少ない。

  2. 一連の変化は、OH-が負極から正極に移動することで説明がつく。この場合、OH-の輸率 tOH-=1である。一般には
    tOH- <1である。

<ここでの結論>

Zn(OH)42-の濃度が負極上で有限であればメッキが可能である。

6-23-2021, S. Hayashi