太陽の奇跡 (1)

エジプトのアブ・シンベル神殿

<アブ・シンベル神殿の奇跡>

2020年秋、NHKのアナザーストーリーズは、「巨大遺跡引っ越し大作戦〜エジプト アブ・シンベル神殿」でした(再放送)。 アスワン・ハイダムが完成すれば水没してしまうので、その前にこの巨大神殿を見事高台に移築したという話です。

移築前なら 2/21と10/21の早朝、太陽が4°の高さになると、入口から60m奥にある王の像が神々しく照らされというのが奇跡の意味でした。これに合わせて太陽の祭典が開催されていました。

<奇跡の日>

この神殿が完成したのはラムゼス2世の時代(BC 1265)で、即位の日と誕生日に合わせて設計されたという説がありますが、 太陽光線が同じように射し込む日のペア(ミラクルペアと呼ぶことにします)の一つが(2/21,10/21)なのでものすごい偶然だったといえます。

それよりは M.Shaltout氏の唱える春の農作業と秋の刈り入れの開始日とする説(2015)に私は賛同します。

<ミラクルペアをどう探すか>

第一段階では、地軸と公転軸が平行になる日(冬至または夏至)から同じ日数か一日の過不足ありで経過した二つの日を候補として選びます。12/22を基準とすれば (2/21,10/21)=[61日,-62日]、(2/22,10/22)=[62日.-61日]などとなります。

第二段階では、太陽の東西南北を角度ψ(真南が0°)、仰角をφでそれぞれ表して軌跡を描きます(ψ-φプロット)。そして太陽のコースの一致度を調べます。

右の図が結果です。 太陽が0.5°ほどの大きさであるとすると、移築前(右)は完璧な奇跡であったといえます。

<奇跡の日のψ-φプロット>

対象日(太線)の前後一日を含む三日間について。間隔は1分。

<移築後の奇跡>

春の奇跡の日が一日遅れることになった理由を上の図から推定します。上の図から判断すると、正面が約0.5°北に振れれば2/21よりは2/22がストライクになります。

しかし秋の奇跡の日は10/21のままのほうがよさそうに思えます。公式には10/22となっているので、この不一致を議論するには、光の入る入口(窓)の情報がないと無理なので、話はここで終わりとします。

<位相のばらつき>

冬至の日は 12/21だったり12/22だったりします。奇跡の日も年ごとにずれて当然のはずですが、それはさておき、このばらつきは公転角の位相のばらつきに由来します。 つまり365.24日で基準位置に戻るところを365日で戻ったとすると、次の公転の初期位相Ω0はマイナスになります。 軌跡の日を詳しく議論するためには、位相のばらつきも考慮すべきでしょう。

11-16-2020, S. Hayashi